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編み物をめぐる著作権侵害の裁判といえば、YouTubeやSNS界隈では注目を集めている裁判です。ただし、著作権侵害をされた側が損害賠償を求めた裁判ではない点が特色といえます。
この裁判は、著作権侵害を理由にYouTubeに投稿した編み物動画を削除された女性が、制度の乱用によって損害を被ったとしてYouTubeに申し立てをした女性を相手取って起こした裁判です。
したがって、著作権侵害は事件の本筋ではありません。しかし、著作権侵害の通知に正当性があったかどうかの判断は、著作権侵害の有無にかかっています。
この裁判の当事者となったのは、原告も被告もYouTubeに編み物動画を投稿する40代女性です。被告は2人と報道されています。
原告女性がブックカバーとポーチを編む様子を動画で投稿したところ、当該動画2本が自分の著作権を侵害するものだとして、被告の40代女性が、YouTubeに申し立てを行いました。結果的に、YouTube側は申し立てを受けて当該動画を削除する措置が取られています。
提訴に至るまでに両者の間でどのようなやりとりがあったのかは定かではありませんが、SNS上では有名なトラブルとして知られています。原告の女性としては、「身に覚えのない著作権侵害」を理由として、編み物の動画2本を削除されてしまったことを不服としています。
被告の女性は「著作権侵害」と訴え、原告は「そもそも著作権侵害などした覚えがない」と主張しており、まったくの平行線をたどっています。
原告の保有するYouTubeチャンネルは、登録者数1万人を超えており、月額で1万円以上の広告収入があったものの、アカウントを失うリスクをおそれて新規動画の投稿を控えざるを得なくなったとしています。
YouTubeでは著作権侵害による削除依頼で動画を削除された場合、著作権侵害の警告を受けます。最初の警告から3回の違反警告を受けると、アカウントのチャンネルはすべて停止され、動画はすべて削除されてしまいます。
そのため、著作権侵害による削除依頼からの警告を受けた場合、アカウントを失わないために動画の投稿を控えるYouTuberは珍しくありません。
後日、無実が認められて動画が復活したとしても、投稿を控えていた間に得られなかった広告収入を考えれば大損害となるケースもあります。
原告が請求している金額は110万円で、伝えられている広告収入よりも多いと考えられますが、アカウントを巡る対応を加味したものであれば不思議ではありません。
本件では、著作権侵害があったとはいうものの、具体的に何がどのように著作権を侵害しているのかといった肝心の話が明らかになっていません。そのため、事件の全体像から検討する必要があります。
著作権が発生するためには、編み物や編み物の動画が著作物と認められる必要があります。
編み物については、明確に個性が表現されているケースでなければ著作物の認定は難しいといわれています。また、編み方が限られる編み物において、編み方そのものを個性とするのは困難で、著作権もまず成立しません。
では、編み物の動画となるとどうでしょうか。動画は、一般に映画の著作物といえるため、編み方を説明する動画の著作権を侵害する可能性はあります。しかし、いずれにしても、最終的には裁判所の判断待ちです。
編み物の動画や編み物に著作権があったとして、実際に侵害行為があったのかどうかも明らかにする必要があります。原告が、被告の編み物に依拠して(参考にして)、パッと見で同じような作品を作ったのであれば、権利侵害の可能性はあるといえます。
動画についても構成や構図などが真似られたと認められれば、権利侵害の可能性は高まります。また、動画内に被告の編み物と類似の個性をもつ作品が映っていた場合、動画の類似性とは関係なく権利侵害が疑われる状況です。
YouTube上の動画を削除できるのは、アップした本人以外ではYouTubeのみであり、被告には削除の依頼はできても実際に削除することはできません。
しかし、原告が問題としているのは動画を削除した責任ではなく、原告の動画を権利侵害とした被告の行為の正当性です。
また、ノーティスアンドテイクダウン方式によってYouTubeには動画の削除について責任はないとされています。
※ノーティスアンドテイクダウン方式…権利侵害の通知を受け実体的判断なしに情報を削除し責任を負わない方式
本件訴訟は2021年3月末現在で継続中であり、判決を根拠とする考察はできません。しかし、YouTubeにおける著作権侵害とその対応については参考となるものがあります。
それは、権利侵害の申し立てを受けた場合の負担が大きいことです。
申し立てを受けないように動画を制作し、投稿することの重要性がわかる事案といえます。そして、身に覚えのない申し立てを受けた場合は、対抗手段をとることが重要です。
参考
参照元:たきざわ法律事務所(https://takizawalaw.com/1052)
参照元:神戸の弁護士松田昌明(https://www.kobengoshi.com/copyright/)
参照元:イザ!(https://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/200820/lif20082012450017-n1.html)
参照元:総務省(https://www.soumu.go.jp/main_content/000105846.pdf)
インターネット関連の訴訟や個人情報の開示請求へ取り組む弁護士として有名。
インターネット上での著作権や肖像権、誹謗中傷などへ力を入れて対応。YoutubeやSNSでの訴訟にも詳しく、他弁護士事務所から相談や依頼者の紹介を受けている。
新しい分野の訴訟問題のため、誰でも気軽に相談ができるよう、LINEによる相談受付を行うなど、その親しみやすさからも支持を集めている。