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メイクアップアーティストの楽曲著作権侵害といえば、YouTubeで数百万人ものチャンネル登録者をもつ人気のメイクアップアーティスト、ミシェル・ファンさんが訴えられた事件として有名です。2014年の事件で、美容ファンのみならずさまざまな層に広く注目を集めました。
ミシェル・ファンさんがYouTubeの動画やサイト内で複数のアーティストの楽曲50曲を無断使用したとされ、原告であるUltra Music社が15万ドル、日本円で1,500万円の支払いと自社レーベル楽曲の使用差し止めを求めたものです。
Ultra Music社がミシェル・ファンさんを訴えるに至った経緯は以下のようなものでした。
・人気YouTuberであるミシェル・ファンさんが無断で楽曲を使用することは損害も大きく看過できない
あくまでも原告であるUltra Music社の主張であり、実際にどの程度の損害が発生していたのかは伝わっていません。楽曲の使用方法はYouTubeに投稿した動画のBGM的なものといわれており、それがなければ楽曲の売上が上がったといえるものかどうかも不明です。
もちろん、実害の程度で著作権侵害の事実が左右されるわけではなく、侵害が事実であれば許されないことといえます。
Ultra Music社側はミシェル・ファンさんが楽曲を無断使用して利益を得ることも問題視していたとのことです。
たしかに、楽曲が直接的な利益には結びついていなくても、YouTube内のメインコンテンツによる利益が上がれば、動画の構成要素であるBGMが果たす役割は小さくないといえるでしょう。
本件訴訟の論点、争点は本当に無断使用だったのかというそもそも論です。YouTubeの動画内でレコード会社が権利をもつ音源を無断使用する行為は、日本の著作権法では少なくとも著作隣接権の送信可能化権の侵害に当たります。
原告のUltra Music社はミシェル・ファンさんが無断で楽曲を使用したことを根拠に損害賠償の請求と差し止めを求めました。しかし、被告のミシェル・ファンさんはUltra Music社の許諾を得たうえでの使用だったと真っ向から反論しています。
当事者の認識が食い違っているために起きた事件ですが、どちらかが嘘をついているのか、何かの間違いなのかを外部から知る術はありません。
結局のところ、この裁判は裁判所の判決を待つことなく、翌年に両者の示談で終わったとのことです。示談の内容は不明で、権利侵害があったのかなかったのかもわからないままとなりました。
国が変われば裁判も賠償額も変わるものですが、日本の裁判に当てはめたとき、本件侵害行為が認められたとして1,500万円の請求額が妥当かどうかを考えてみます。
日本の裁判における損害額の算定に使えるのが、著作権法第114条に定める損害の額の推定です。
楽曲を動画のBGMとして使用することを、公衆送信を行ったと見た場合、動画の再生回数を受信複製物の数量に置き換えます。さらに、受信複製物の分だけ販売を阻害されたとすれば、当該数量×利益単価が推定される損害額です。
数百万人のチャンネル登録者数をもつYouTuberであれば、動画1本で200万や300万は再生される可能性が高く、利益単価を5円~10円に設定すれば1,500万円は妥当な金額です。
ただし、動画1本だけに限った結果であり、複数の動画で生じた損害としては安いと評価できます。当然ながら、実際の再生数や利益単価がどの程度になるかによっても、高いか安いかの判断は変わります。
また、BGMを聞いたに過ぎない人が本来なら楽曲を買うはずだったとする根拠も乏しく、再生数×利益単価の設定事態に無理があると考えることも可能です。逆にいえば、BGMを聞いたことをきっかけに楽曲の購入につながった可能性もあります。いずれにしても、実際の裁判では根拠のある数字を代入すべきです。
著作権侵害の問題といえば、侵害を主張する側が本当の著作権者か、実際に行われた行為が侵害行為に当たるかといった争点が思い浮かぶところです。しかし、本件のように著作物の使用許諾があったかどうかが争われるケースもあります。
本件訴訟の教訓として、許諾を受けるときは正確な書面を作成することが重要です。書面の真実性を争われるケースがないわけではありませんが、書面があれば多くのケースで早期解決を図れます。
インターネット関連の訴訟や個人情報の開示請求へ取り組む弁護士として有名。
インターネット上での著作権や肖像権、誹謗中傷などへ力を入れて対応。YoutubeやSNSでの訴訟にも詳しく、他弁護士事務所から相談や依頼者の紹介を受けている。
新しい分野の訴訟問題のため、誰でも気軽に相談ができるよう、LINEによる相談受付を行うなど、その親しみやすさからも支持を集めている。